大阪書籍　2年上

コスモスさんからお電話です　　　杉　みき子

　ここは、コスモス通り一丁目。

道の両側は、コスモスの花の真っ盛りです。

電信柱も電話ボックスも、みんな花に埋まってしまいました。

ルミは、お菓子屋さんから貰った大きな風船を持って、コスモス通りを帰ってきます。

　風が、さやさや。

　風船が、ゆらゆら。

コスモス通りを歩くと、自分もコスモスになったみたいで、とってもいい気持ち。

「あら？」

ルミは、急に立ち止まってそれから、コスモスの咲いている中へ，ずんずん入っていきました。

「どうしたの。落し物でもしたのかい。」

近くでスケッチをしていた絵描きさんが、声を掛けます。

「しいっ。あのね、コスモスさんが何か言っているんだけど，よく聞こえないの。」

「へえ？」

絵描きさんは首をかしげます。

「あ、分かった。これだわ。」

その花は、あんまり首が長いので、今にも折れそうに、首を曲げているのです。

「この花が、くるしいっていってたのね。」

「そうか。じゃあ，助けてやらなくちゃ。」

　絵描きさんは，近くに落ちていた竹の棒を拾ってきました。

「ええと、何処かに紐がないかな。」

「あ、これでもいい？」

　ルミは風船を差し出しました。

　風船の糸で、竹の棒に結んでもらった花は、しゃんと首を持ち上げて，元気になりました。

さあっと風が吹いて、コスモスがさわさわ揺れると，風船も一緒にふわふわ動きます。

「おじさん、コスモスさんが，ありがとうっていってるよ。」

「そうかい。よかった、よかった。」

絵描きさんは，笑ってスケッチに戻りました。

次の日。

お昼過ぎから降り出した雨が，夕方になって止みました。

夕日がうっすらと窓から射し込んできます。

ルミがおやつを食べていたら、電話がルルンと鳴りました。

「もし、もし。こちら，コスモス通信局です。」

「えっ。」

｢こちら，コスモス通信局。機能のお礼です。東の空を見てください。｣

電話は，それっきりで切れました。

｢なんのことかしら？｣

わけがわかんないけど、とにかく外へ出てみたら……。

「わあっ、大きな虹！」

ルミは，そのまま，コスモス通りヘ走っていきました。

「いま、電話くれたの，ほんとにコスモスさん？」

　電話ボックスの周りは、コスモスの花で一杯。

　風がさわさわ吹いて，コスモスたちは揃って首を振りました。

　それから三日目の夕方。

　また、電話が鳴りました

「もし、もし。こちら，コスモス通信局。今日は，西の空を見てください。」

｢わあっ，素敵な夕焼け！｣

ルミは，またコスモス通りへ走っていきます。

｢今，電話くれたの、ほんとにコスモスさん？｣

　赤蜻蛉が花の間をすいすい泳いで、コスモスたちは、また揃って首を振りました。

　それからひと月経ちました。

　秋ももうすぐおしまい。

　コスモス通りのコスモスの花も，みんな枯れてしまって寂しくなりました。

そんな土曜日の夜。

ほんとに久しぶりで，電話がルルンと鳴ったのです。

｢こちら，コスモス通信局。明日，デパートの五階へ，絵の展覧会を見に来てください。｣

日曜日。

ルミは、お母さんと一緒に，デパートヘ行きました。

エレベーターで五階へ上がると，展覧会の大きな立て札が出ています。

「あ、ここだわ。」

中に入って、正面に掛かっている大きな絵を見たとたん、ルミの目が真ん丸くなりました。

その絵の中には，ルミがいたんです。

「やあ、君だ，君だ。よく来てくれたね。」

あの絵描きさんが、声を弾ませて，イスから立ってきました。

「ねえ、昨日，電話くれたの，ほんとにコスモスさん？」

絵の中の電話ボックスがきらっと光って，コスモスたちは揃って首を振りました。

　　　　　　　（永田萌　絵）