大阪書籍2年下　

いいものもらった　　　　　　　　　　森山京

狸のお婆さんが、遠くに住む孫達を尋ねることになりました。

「ええと、孫の数は十匹だったか，九匹だったか、それとも十一匹だったかねえ。」

お婆さんは、しばらく孫達に会っていなかったので，何匹いたのか，忘れてしまいました。

「お土産をいくつ揃えたものか。余っても無駄だし、足りなくても困るし。そうだ、中を取って、十ということにしよう。」

お婆さんは，十匹分のお土産を持って、孫達の所へやってきました。

「いらっしゃい。お婆ちゃん。」

「はい、こんにちは。みんな大きくなったねえ。」

お婆さんは、風呂敷包みを開けて、孫達にお土産を配りました。

ところが、

「おや、どうしよう。一つ足りない。」

そう、孫は、全部で十一匹いたのです。

「済まないねえ。あいにく十しか持ってこなかったんだよ。」

お婆さんは、何も貰えなかった孫に謝りました。

「いいよ。代わりにそれをちょうだい。」

タンゴというその孫は、風呂敷を指して言いました。

「これは，風呂敷だよ。風呂敷でもいいのかい。」

「うん。いいよ。」

タンゴは、風呂敷を四つに折りたたみました。

「ちっちゃくなった。」

タンゴは、さらに四つに折りました。

「またちっちゃくなった。」

タンゴは重ねて四つに折りました。

風呂敷は、小さな四角になりました。

「いい物もらった。」

タンゴは風呂敷を頭に載せて、外へ出かけて行きました。

林の中へ入っていくと、野鼠に出会いました。

野鼠は、地面に落ちた草の実を、せっせと拾っているところでした。

「そんなにたくさんどうするの。」

「冬に備えて、蓄えておくんだ。食べ物が乏しくなるからね。」

「よし、僕も手伝うよ。」

タンゴは、風呂敷を折りたたみ、鉢巻にして、きりりと結びました。

そして、ちょこちょこ駆け回り、草の実を集めました。

「ありがとう。お蔭で仕事がはかどった。」

野鼠は、喜んで帰って行きました。

次に出会ったのは、狐でした。

狐は、鎌を使って、すすきを刈り取っているところでした。

「そんなにたくさんどうするの。」

「よく乾かして、床に敷くんだよ。冬でもぬくぬく休めるようにね。」

「よし、僕も手伝うよ。」

タンゴは、風呂敷を折りたたみ、頬被りにして、すっぽりくるみました。

そして、すすきを束ねて日向へ運びました。

「ありがとう。お蔭で仕事がはかどった。」

狐は、喜んで帰って行きました。

それから、熊に会いました。

熊は、大きな木を切り倒して、薪を作っているところでした。

「そんなにたくさんどうするの。」

「みんなに分けてあげるんだよ。寒くなると、薪はいくらでもいるからね。」

「よし、僕も手伝うよ。」

タンゴは、風呂敷を折りたたみ、お腹に巻いて、ぎゅっと締めました。

そして、散らばった薪を草の蔓で括りました。

「お蔭で仕事がはかどった。そのうち薪を届に行くよ。」

熊は、喜んで帰って行きました。

風が冷たくなってきました。

タンゴは、風呂敷を三角に折り、マントのようにして、肩から羽織りました。

今度は、誰にも会いませんでした。その代わり、地面のあちこちから、茸がにょきにょき顔を出していました。

「いいもの見つけた!」

タンゴは、風呂敷を広げると、片っ端から茸を採りました。

あたりは、いつの間にか、薄暗くなっていました。

「早く帰らなくちゃ。」

風呂敷包みを背負って、タンゴは急ぎ足で歩き出しました。

そのうちに、背中の茸が重たくなってきました。

「ああ、重い。重い。もう歩けないや。」

へたへたと座り込んだ時、

「タンゴやあ。」

「タンゴはどこだあ。」

お父さんや兄弟達の呼ぶ声が聞こえてきました。

「ここだよ。ここにいるよう。」

「やれやれ、無事で良かった。」

　迎えにきたみんなは、大きな風呂敷包みを見てびっくり。

　その晩の食事は、茸汁でした。

「さぞ、重かったろうねえ。」

　風呂敷をたたんでやりながら、お母さんが言いました。

「よくもまあ、こんなに採ってきたもんだ。」

　大きなお鍋を覗いて、お父さんが言いました。

　みんなは、何杯もお代わりをしました。

「ずいぶん長生きをしたが、こんなに美味しい茸汁は初めてだよ。」

お婆さんも、お代わりをしながら言いました。

「嗚呼、食べた、食べた。」

みんなは、ポンポコポンポコ腹鼓を打ちました。

お婆さんが自分の家へ帰る日が来ました。

孫達は、峠まで見送りに行きました。

「さようなら、お婆ちゃん。」

「はい、さようなら。今度は、みんなで遊びにおいで。」

「うん、行くよ。」

十一匹が一斉にうなずきました。

「この風呂敷にお土産を包んでいくよ。」

タンゴが言いました。

「ありがとう。まってるよ。」

　お婆さんが手を振りました。

　帰り道、時雨がぱらぱら降りかかりました。

　タンゴは、風呂敷をさっと広げ、みんなの頭の上を覆いました。

「おっきい傘みたいね。」

他の一匹が言いました。

「いいもの貰った。」

タンゴがにっこり笑いました。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（村上勉　絵）